Stop AIDS

今日は世界エイズデー
大学時代の恩師、Dr. Gardnerのことを想う。ゴシック建築史が専門で、講義は毎回準備万端でおもしろく、学生の質問にも気さくに答えてくれ、テストやレポートにはいつも励みになるようなコメントを書いてくれた。junior yearを終え、私は1年休学して日本に帰ることにしたのだが、ちょうどその1年は彼もsabbatical(教授が取る長期研究休暇)を取るのでちょうどいいやと思い、復学したらまた講義を受けるつもりで私は帰国した。
1年後復学し、美術史学部のスタッフで友達でもあるAnneの家に遊びに行った。日本での話などをしていたら、彼女が突然"Did you know Dr. Gardner?"と聞く。"Sure, I took his Gothic cathedrals class. Wasn't he on sabbatical while I was gone?" と答えると、気の毒そうな顔をし、"He passed away."と言う。I was speechless. いまだにあのときAnneが座っていた位置や、部屋の様子を覚えている。あの瞬間が頭にfreezeされている。エイズで亡くなったという。まだ40代だったはず。ショックだった。sabbaticalで休んでいたのではなく、体調が悪かったのか。全然知らなかった。もっと彼の講義を受けておけば良かったと思った。オフィスアワーのときにもっと話に行っておけばよかったと思った。
HIVエイズウイルス)に感染した、エイズで亡くなった、と聞くと、その感染理由に興味を持つ人が多い。血液製剤で感染した人は気の毒で、同性間の性行為や麻薬の注射針などで感染した人は「serves them right(当然の報いだ)」のような態度を取る人がいる。私はDr. Gardnerがなぜエイズになったのかは知らないし、そんなことはどうでもいいと思っている。優秀で親切で尊敬していた人が亡くなってしまい、当時(1990-1991年)の医学では彼の症状を改善することはできなかったことに対する深い悲しみしか感じない。

大学時代に取った思い出深いクラスに「Voices of strangers」というのがある。普段自分が直接話をするような機会の無い人々、「少数派」に属する人々を招待して、彼らの話を聞くというクラスであった。たとえば、盲目の人、同性愛者、事故で下半身不随になった人、自殺未遂をしたことのある人、脳障害を持って生まれてきた人、性犯罪にあいそれを乗り越えた女性たち、そしてHIVエイズウイルス)陽性の人々。人気のクラスで、コンサートも行うような一番大きなホールでの講義だった。
HIV陽性の人々の回は、パネリストは男女あわせて4、5人いたと記憶している。同性愛者の男性もいたし、相手がHIV陽性とは知らずにコンドームを使わない性行為をたった一度持ったために感染してしまった女性もいた。「なぜ感染したかは説明したくない、感染ルートではなく、感染した今をどう生きているかを話に来たのだ」と静かに語る人もいた。彼らがいかにAIDS発症の恐怖と差別と戦いながら毎日生活しているか、家族はどう受け止めているのかなどを話してくれた。皆さんとても勇敢な人達であり、クラスが終わったときには、会場に居た学生数百人全員が割れんばかりの大きな拍手をした。もしAIDSを発症してしまった場合でも治療は飛躍的に進歩しているというし、彼らには今も生きていて欲しいと願う。

大学ではsafe sexに対する教育も徹底していた。自然科学、生物、社会学など、色々な講義でも取り上げていたし、大学のヘルスセンターには、予約カードを書くカウンターに無料のコンドームが置いてあった。キャンディをいれるような透明の大きなガラスビンにコンドームが山ほど入れてあり、勝手に取っていいわけ。私はヘルスセンターに行く機会があったときに、ついでにせいぜい2つ3つもらう程度であったが、一度予約カードを記入していたとき、おもしろいものを見た。スタスタと男子学生がカウンターに近づいてきたと思ったら、両手をビンの中に入れてごっそりつかみ取りをし、取ったコンドーム一山をバックパックにぶちこんで、そのまままたスタスタと去っていったのであった。カードを書く手を思わずとめて、呆然と彼の行動を見つめてしまった。ただならもらえるだけもらうぜ、と徹底している男であった。

性行為を持ったことのある人なら、誰にでも感染リスクはある。 中には、献血HIVの感染の有無を調べようとする馬鹿がいるらしい。「絶対」やめよう。保健所で匿名かつ無料で検査が受けられるのだ。保健所へ行け!血液を取るだけで、痛い検査ではない。

参考までに私が踏んだ手順を書いてみる。保健所に電話し予約を取る(名前を名乗る必要は無い)。当日、予約時間に保健所に行く。「10時に予約しておりますケ」まで言ってつい名乗りそうになったのだが、看護師が「わー、言わなくていいです!」と、両腕を阿波踊りのように動かしてさわいだので笑ってしまった。当番の医師とちょっと話をし、特に心配なことがあるかどうかなど聞かれる。その後、看護師に血液を検査管1本分取ってもらいそれで終わり。5分で済む。1週間後に結果を聞きに再び保健所に行き、医師から結果を聞く。ちょっと緊張する。「はい、陰性です。何か聞きたいことはありますか。」と聞かれたが、一通りのことは学生時代に学んだので特に質問もせずに帰宅。それだけである。簡単。詳細はHIVまめ知識参照。

Dr. Gardner, you were one of my favorite professors. You will never be forgotten.