昨日の夜6時半ごろ、訪問者があった。ドアを開けると、レインコートを羽織った中年の女性が立っていた。私が、「Hei」(hi)と言うと、彼女はいかにも寒そうにぶるっと体を震わし、無言で紙切れを私に渡す。フィンランド語で何か書かれていたが、私には理解できない。「私は・・・」と書かれていたので、自分のことを説明している内容なのだろうと推測。紙切れはラップのようなビニールで包んであり、印刷した文字が雨ににじまないようにしてある。muteなのだろうとは察しがついた。フィンランド語で「悪いけどフィンランド語はわからない」と言ってみた。彼女は、耳と口を指差し、「ei, ei」(no, no)と言う。耳が不自由なのはわかるが、こちらも紙もペンも持っていない。
いくら私が声を出して「フィンランド語がわからない」と言っても彼女に聞こえないのと同様に、いくらフィンランド語で書かれた紙を見せられても私には理解できない。彼女はあきらめて去っていった。
いったい何の用だったのかは謎であるが、正直なところを言うと、物乞いだろうと直感的に思った。しかし、家まで来るか。うちを去った後は、隣の家のドアをノックする音が聞こえたが、隣人がドアを開けたかどうは知らない。
ネットで検索してみたら、パリの方では、ルーマニア人の若い女の子がdeafでmuteなふりをして物乞いをするというケースが増えているらしい。イギリスの掲示板で、家までこういう物乞いが来たという書き込みもあった
Pが出張中で留守なので、メールでこんなことがあったと連絡してみた。「そんなの聞いたことが無い。もうノックがあってもドアは開けないように」と、私は子供の留守番かというような返事であった。
もしかして、近所に引っ越してきた人が挨拶をしにきただけだったのかと考えてみたりもするが、それはあまりにnaiveな捕らえ方だと思ったり。近所の人なら、なんかもっと違うコミュニケーションの仕方があるだろうし、笑顔があってもよさそうなものである。去っていくときの表情が「ちっ」みたいな感じだったし。
インターホンが欲しいと切に思う。オートロックのアパートなら当然ながら設置されているが、ここはタウンハウスが並んだ作りで、各戸にインターホンは無い。人が来ることはそう無いが、来るとドアを開けなければ応対できないというのは私にとってはストレスである。ドアチェーンもないんだよ。平和な町である。
あの女性が、本当に物乞い目的だったのであれば、それはそれで非常に悲しいことである。