ひょんなことから富裕層に住み込みの子守として雇われることになった新卒の話。映画としてはpredictableではありつつも、役者のいいのが出ているのでおもしろかった(Laura LinnyとPaul Giamatti)。主演のスカーレットはどうなんでしょうか。以前は、彼女はセクシーだし、演技もうまいと思っていたのだが、この映画では、なんだか大根だなと思った。
テーマがlive-in nannyということで、大学時代の友達のことを思い出した。メリケンのビビアン(仮名)は、live-in nannyとして生計を立てながら大学生をしていた。仕送りもほとんど無く、学費はfinancial aidを使っていた。アメリカの大学生は自立した人が多いのは確かだが、うちの大学は比較的裕福な家出身の学生が多く、駐車場には高級車が止めてあったし、有名人の子供などもいたし、彼女みたいに生活費も授業料も自分でがんばっているという人は少なかったのではないかと思う。
彼女にしても高校までは裕福な家で育ったらしい。高校3年生のときにご両親が離婚することになり、お父さんはお母さんへの嫌がらせとして、末っ子の彼女の教育費は一切払わないと言ったそうだ。それがどういう理屈なのか理解しかねるが、ビビアンとお母さんはとても仲良しだったので、こんな卑怯な方法で傷つけることにしたのだろう。ビビアンのお兄さんとお姉さんは、既にその時点で私立大学を卒業しており、授業料も全部払ってもらっていたらしい。なんというアンフェアな父親。ビビアンは父親のことはひどく嫌っていて、離婚後は一度も会っていないと言っていた。
子供が大好きなビビアンは、将来幼稚園の先生になりたがっていた。私が彼女に初めて会った頃は、まだ住み込みはしておらず、子守のバイトをしていた。こういうバイトが将来の役に立つと思うし、楽しいと言っていた。
大学3年の頃だったかに住み込みの子守をすることになった。お金持ちが多い地域だったので、そういう仕事は結構あったらしい。最初は、裕福な家出身のシングルマザーwith two girlsの家に雇われていた。学生にしては結構なお給料、家賃無し、光熱費無し、広いバスルームつきで立派な家具つきの部屋、雇い主の車も自由に使ってOKという好条件であった。友達が泊まれるようにと、部屋にはベッドが二つあり、私も何度か泊まらせてもらった。高級住宅地にあるでっかい家で、居間には雇い主と娘たちの肖像画が飾ってあったが、美術史専攻の私から見ると、really really tackyな絵であった。
まあ、それはともかく、この雇い主というのが、perpetual teenagerというか、無責任な金持ちのわがまま女で、その娘たちもそっくりであった。「わー、テレビドラマみたい」というくらいのいかれた人達だった。娘たちはまだ小学3年と1年で小さいので、彼女達がああなのは親が悪いからとしか言えないと思うのだが、まあ、とにかく不愉快なガキだった。とはいえ、law schoolの学生だという母親はいつもいないし(本気で弁護士になるつもりだったのか謎)、いてもフェラーリに乗ってる彼氏と学校の仲間たちを家に呼んで大人だけでパーティーしてるし、父親は「娘らに会わせろ」と夜中に現れて、家の窓をガンガン叩きながら騒いでセキュリティーアラームがワンワン鳴って警察が来たりするし、毎週カウンセリングを受けていたという気の毒な子供たちであった。
この家で働き始めてからしばらくして、ビビアンもちょっといかれ始めてしまった。自分もお金持ちのように振舞い始めたのである。生活費というのがほとんどかからないので、「400ドルのブレスレットを買っちゃったわ」などと、私の金銭感覚ともずれる行動をし始めた。極め付けが、「クラスで新しく知り合いになったメアリーって子がいるの。いい子なんだけど、ちょっとあんまり仲良くなれそうにないのよね。お金がなさそうっていうか」の傲慢発言。住み込みを始める前は、絶対にこんなことを言う人ではなかったので驚いた。
だが、さらに日が経つと、いくら好条件の仕事とはいえ、雇い主のわがままぶりに振り回されることに不満を感じ始め、愚痴が多くなった。よく覚えているエピソードがある。子供の学校のバザーで売るためのクッキーをビビアンと娘たちが一緒に焼いて持って行ったのだが、会場では雇い主が売る役をし、他の母親たちが、「シングルマザーでlaw schoolに行きながら子供たちの世話をし、今日もクッキーまで焼いてくるなんてすごいわ」などと彼女をほめたところ、ビビアンがすぐそばにいるのに無視し、クッキーを自分で焼いていないことも言わず、全部自分一人でやっているような顔をして笑っていたらしい。
それでも1年くらいはそこに勤めていた。しかし、「子供には悪いけど、もう雇い主に我慢できないからやめる」と言って、別の住み込み先を見つけた。医師の男性とその妻の家で、子供が産まれたばかりでヘルプが欲しいということで子守を募集していたらしい。今度の家は、もともと住み込みの使用人が住めるような独立したアパートがついており、私から見ると夢のような居住空間であった。母屋とは二重ドアで区切られており、ビビアンのアパートは専用の玄関も台所もあるし、ほとんど一人暮らし感覚を楽しめるところだった。
今度の雇い主はいい人で、赤ちゃんだからまだ無条件にかわいいし、ビビアンも以前より楽しそうであった。その一家がハワイ旅行に行ったときはビビアンも同行し、「初めてのハワイよ!」と喜んでいた。旅費は当然雇い主持ちである。
ある日私の電話が鳴り、出てみると「今、どこから電話してるかあててみて〜」と楽しげなビビアンの声。お使いか何かで医師のお父さんの車を運転していて、自動車電話からかけていたのであった。あの頃、携帯電話なんてないからね。すごい昔話のようだ。
その後、「今度はパリに行くのよ!」と興奮して報告の電話があった。パスポートを取り、とても楽しみにしている様子であった。お金持ちのすることはすごいなあと私は感心した。
しかししばらくして、「雇い主がクレイジーなのよっ!」と怒りの報告に変わった。奥さんが夫とビビアンの仲を疑って怒って責めてきたというのだ。あまりのソープオペラ的展開に私は笑いそうになったのだが、ビビアンにしてみれば大変不愉快なことであるので自粛した。笑いそうになってしまうくらい、ビビアンがそんなことするのはありえなかったということもある。なんだか色々すったもんだあったらしいが、結局、パリ行きはおじゃんになった。雇い主に恵まれないビビアン。
この後のことの記憶が全然ない。段々ビビアンとは住む世界が違ってきて、徐々に疎遠になりつつあったのだが、夏が来て私が日本に帰ったこともあり、結局連絡が途絶えた。さすがにあの家は出たんじゃないかと思う。
幼稚園の先生にはなったのだろうか。変な親と関わりたくなくて別の道を進んだかもしれんな。