ばあ様の部屋に入り、ふと顔を見ると、唇がいつもより赤い。皮がむけて血でも出たか、と「あれ、おばあちゃん、唇が」と言いかけて、そういえばさっきずっと鏡台の前で何かしていたことを思い出し、こりゃー口紅をつけたのね、と気づいた。ばあ様が紅を差したを見たのは何十年ぶりだろうか。血が出たかと思ってしまうくらい久しぶりだ。
明日はデイサービスだと知らせたところ、いつものとおり「ええっ!!どうしよう。何着て行こう。もう、寒いのに・・・」と反応し、その後鏡台の前に座り、ハンカチやティッシュなど持っていくものをバッグに詰めていた。文句を言いつつも、イソイソと用意をするばあ様。
デイに行き始めて、昔のようにおしゃれに気を向けるようになった。ファンデーションを新しく買って持っていったところ、実際につけているかどうかは不明だが、必ずデイに持って行くバッグには入れている。今日つけていた口紅は、叔母が置いていったものと推測される。新しいのを買って持っていこう。つけるつけないは別として、持っていると嬉しいとか安心とかいうことはあると思う。メイク用品は楽しい。98歳だって女だ。
「あんなところでも、ときどきは外に出かけると着るものを気にするようになるし、やっぱり家にばっかりおっちゃいけんね」とデイをあんなところ呼ばわりしているが、前向きな発言はすばらしいことである。「行ってもボケたジジババと一緒にじーっと座っとるだけで、何をするというわけでもないけど」だそうだ。「お茶の一杯も出んかった」と言うこともあるのだが、お昼もおやつも出してくれる。本当に忘れているのか、一日外で遊んでいたことを両親に対して悪いと思っていて、大しておもしろいところではないということをアピールしようとしているのか、その両方なのかはわからない。デイに行く前は、行ったこともないのに「ああいうところは大っきらいなんだから」とそれはそれは激しく抵抗していたばあ様だが、毎回行くようになったということは、やはり何か楽しいことがあるのだろう。
私も外に出ないとね。