スリッパを出せ、私をいじめるな、とばあ様が涙したらしい。父談。
スリッパは危ないと理学療法士が言っていたし、そこここで高齢者のスリッパはよくないと聞くので撤去している。退院してから座る時間が長くなっているため足がむくんでいる上に、もこもこの靴下を2枚重ねで履いているので、今まで使っていたスリッパではサイズが小さくなっており、脱ぎにくい状態なのでさらに危ない。ばあ様、多いに不機嫌である。
ばあ様の部屋は和室であるが、キッチネットを置いているスペースは板の間であり、部屋の向かいにあるトイレに行くためには板の間の廊下を横切らねばならない。あれだけ厚いソックスを2枚履いているのだから、足が冷たいわけはないだろうと思うのだが、冷たいのだそうだ。
あんまりうるさいんで高齢者用にデザインされたスリッパを買ってみたのだが、前のめりにころびそうになっていたため、即撤去。足元が不安定でまだ無理なのである。だが、最近、動作が早くなり、おまけに以前と同じように歩けると本人は思っているため、どこにも捕まらずに歩こうとしたり、「ちょっとコンビニでパン買ってこようと思うんだけど」などと言い出したり、まあなんというか、素晴らしい回復力を見せている。自分はどこも悪くないと思っているため、あれはだめとこれもだめと色々自由がなくなっている今、とにかくおもしろくないわけである。我々がズボンを履くのを手伝ったり、色々世話をすることが鬱陶しくて仕方ない様子である。「はい、もういいよ。大丈夫。もう監視はいいよ」と追い払おうとする。
結局、「なんでもおまかせするわ〜。お願いね〜」という性格であれば扱いやすいのであるが(普段の生活においてはそんな人とは付き合いたくないけどね)、ばあ様はとにかく自立心が旺盛で、頑なになんでも自分でしたがる人なのである。立派なことではあるが、「そりゃまだ無理だわ」ということもしたがるので困るのである。ほんっとーに困るのである。
あまりの頑なぶりにキレそうになった私は、「3ヶ月近くも入院してたんだから、前と同じように動けると思わないで。今はまだ介護が必要ということを受け入れてください。」とぴしゃっと言ったところ、「3ヶ月は大げさじゃないの」と笑いやがった。「2ヶ月半以上は入院してたよ」と言うと、「じゃあ、3ヶ月じゃないじゃない」と細かい。
こういうばあ様の態度を見ていると、あたしもこういう難しいババーになるんだろうなと思う。