Kaye2006-11-19

去年の11月、出張で来日していたPと東京のジャズクラブで飲み、0時前くらいに店を出たときのこと。平日の深夜で比較的静かな通りを、若い女性が一人ふらふらと我々に向かって歩いてくる。明らかに酔っ払い。まずいんじゃないの、あんなに酔って、と思っていたら、何かにつまずいてころびそうになり、片方のパンプスが脱げた。彼女は地べたにへたり込む。あらあら、と私とPが近づき、「大丈夫?」と声をかけると、彼女は大きなくりくりの目で私を見上げ、泣きそうな顔をして無言で首を左右に振る。一回右側で顔を止め、一瞬ためといて、そのあとぶんぶんと左右に振る感じね。かなり可愛い顔のお嬢さんである。「大丈夫じゃない?」と私が言うと、また無言で首を縦に振る(日本語だから縦だよなあ)。脱げた靴をPが取りにいき、とりあえず履かせたほうが、と言っているので、「足、けがすると危ないから靴履いた方がいいよ」と言うと、よろよろと立ち上がる。「あのね、あたし、見捨てられたの」と私に寄りかかりながら言う。In the meantime, Pは靴を履かせようとひざまずいている。おもしろすぎるこの構図、と思いながらも、「見捨てられたの?そうか。いやなことあるよね、生きてりゃ。タクシーで帰れる距離?止めてあげようか?」などと言うが、彼女は泣きそうな顔をして、「うん、見捨てられたの」と言うばかり。靴が履けたところで、彼女は「人に親切にしてもらったのって、久しぶり」とつぶやく。あたしだって大人になって人に靴履かせてもらったことなんて、靴屋以外ではないよ。
すると、若いスーツ姿の男性二人が道路の反対側から現れ、「なにやってんだよ!」と言いながら近づいてきた。本当に知り合いかどうかわからないので、「知ってる人?友達?」と確認。うん、と返事をする。「あの人たちに見捨てられたの」と言う。まあなんだか、あんまり深刻な見捨てられ方でもなさそうだし、男性諸君は「すみません、連れて帰ります」と言ってるし、彼女も素直に男性に腕を取られてるし、まあいいか、と思い、we let her go.
男性二人に両脇を支えられ、彼女は後ろ向きに歩きながら、「ありがとう、本当にありがとう!」と大声で私達に叫びながら去っていった。芝居か。I wish her well.