母が胃のポリープを取るために入院するというので、私は何を手伝えばいいのかと実家に行ってきた。答えは「何も。」
「何もって、洗濯物とか出るじゃん」「彼がやってくれるって言うし」「ということは、私はあなたよりもお祖母さんの方にpay attentionした方がいいということだな」「そうね」
で、93歳の祖母に入院することを伝えたのかと聞くと、「3回はしたけど」と笑う。と、話をしていていたら、祖母が部屋に入ってくる。「ちょっと、ポリープって大腸のポリープ?」と心配そうに聞く。やっぱりもう忘れている。忍耐強い母は笑顔で「胃よ、胃」とまた説明。「つまんでちょっと取るだけの大したことない手術なんだけど、食餌療法をしなきゃいけないから、ちょっと泊まってくるね」と耳の遠い祖母に聞こえるように大声で叫ぶ母。「ほおお。ちょっと恐いねえ」「だーいじょうぶ、だいじょうぶ、大したことないんだから」 祖母はウルトラ心配性なので、大丈夫連呼をしなければだめである。「胃のポリープねえ」とぶつぶつ言いながら、自室に戻る祖母。
そして30分後私が部屋をのぞくと、「ちょっとKayちゃん。胃のポリープいうのは、薬でとるん?」と聞いてくる。「いや、口から胃カメラみたいなの入れて、ちょちょっと取る手術らしいよ。簡単なんだってさ」と説明。「ほおお、胃カメラ」と感心したように頷く。もう入院することも忘れているかもと思い、「食餌療法があるから10日くらい入院するんだって」と言うと、「ええ?」と初めて聞くように驚く。「点滴とか重湯とかね」と言うと、「ああ、やっぱり胃じゃけえ、流動食になるんじゃね」とちゃんと理解している。「そうそう」と、もう通じたかな、でもまた忘れるとは思うけど、と思いつつ私は部屋を出る。
またしばらくして、私は帰ろうと祖母の部屋の扉を開ける。「じゃね」と言うと、私の後ろにいた母を見て、「ちょっと、今日手術したんだって?知らんかったよ」と心配そうに寄ってくる。私は苦笑しながら、「やっぱりもう混乱してる」ともう何も言わずにさっさと裏口に回り、母も笑いながら「手術はあさってよ、おばあちゃん」と言いながら私を送ろうとついてくる。今度は父が代わり、これでもかというような大声で「明日入院して、ポリープを取るのはあさって!」と説明。別に怒っているわけでもなんでもないのだが、やたら大声で話すので、近所の人は何を怒鳴っているのだ、と思うかもしれない。以前、大声で話した後、祖母自身が私の方に向いてぼそっと「ありゃ、大きい声だすね」と言ったのが最高におかしかった。
というわけで、母が入院中の私の仕事は、母の世話というよりも、祖母の世話になりそうである。