実家の前の桜の下で、今夜は大宴会が催されていた。午後6時半ごろ祖母の部屋へいってみると、「今日は宴会があるみたいよ。あんたもよばれにいったら?」と笑わす。93でも実にしっかりしている。
「今日は昼からあの背広の人が木の下へおったよ」と花見の準備をしているおじさんを指差して言う。「ずううっと一人で5時間はおったよ。あの青いビニールの敷物を取られたからいうて、おしいことはないだろうに」 敷物の監視のために残ったんじゃないだろうけど、まあ、会社に居場所のない人なんだろう。
日が落ちると、歓声、手拍子、歌声などが聞こえてきてにぎやかである。青い山脈だとか、懐メロを大声で歌う男性の声がよく響く。「今日は盛り上がっとるな」と父も笑う。先週末はやたらと寒くて、桜もまだせいぜい2部咲き。「週末組は、肩をすぼめてうつむいたままぼそぼそ弁当食って、さっさと帰っとったぞ」とのこと。今日は暖かかったし、夜もそれほど寒くない。花見日和だろう。
8時過ぎて私もそろそろ帰ろうと思い、祖母の部屋をのぞくと誰もいない。「あら、おばあさん、いない」「え、出かけたのかしら」と母。「さっき、あたしに宴会のご馳走になりにいけとか言ってたけど、まさか自分が行ったとか」「手拍子してたりして」想像してひとしきり笑う。父親に「おばあさん、いないんだけど」と言うと、「さっき、ちょっと出てきます、っつって出てったぞ」と言う。行き先を言わないところが怪しい。「やっぱり手拍子してるかも」と母はクツクツと笑う。
祖母の帰りを待つことなく私は実家をあとにしたので、真相は不明。ま、いつもどおりコンビニにでかけたんだろうけど。夜になると出かけるばあ様だからな。