昨夜は、Pの同僚お二人をお招きした。最高財務責任者のCさんは、大変上品で礼儀正しい30代前半くらいの男性であった。お帰りになった後でPが言うには、時代が時代ならフィンランドの貴族だという。働く必要など全然ないようなお金持ちらしい。苗字もvonなんとかっていう格調高い感じの名前。忘れた。(すんごい庶民ぶりだなあ、あたし。)やはりあの物腰は育ちなのね。
もう一人のゲストは最高技術責任者のH女史。60歳近いのかな。ハンガリー出身、イスラエル育ちで、家は貧しかったが一生懸命お金をためて二十歳で単身渡米し、物理で博士号を取り、5回だか結婚したことがあって(ひっじょうにオープンにいろいろ話をされていた。今はフリーなので、素敵な男性を探しているらしい)、今もアメリカに住んでいるという。フィンランドには、出張という形でときどき来て仕事をするらしい。なんという興味深い人生だ。そっりゃーもう話題が豊富で、大変おもしろい人だった。
そしてこんな立派なかたがたを招待して何をふるまったかというと、餃子。Pが餃子がいいって言うから。「ほんっとうに餃子でいいんだな」と3回確認したわよ。ちょっと友達を呼ぶって感覚でいいんだから、なんでもいいんだとP. ホテル住まいのH女史は夜は退屈だろうしということで、当初は彼女だけを招待していたのだが、会社の責任者同士で親睦を深めるのも必要ということで、当日Cさんも急遽誘おうと思いついたらしかった。ビジネスディナーだと思って来るんじゃないでしょうね、としつこく確認。「違う。ただの食事だ」と断言するPを信じ、餃子を包んだわけよ。
H女史は、物理だけではなく、歴史にも非常に興味があるそうで、なんと武士とフランスの騎士の比較研究をしていて、いずれ本にするかもということであった。うひゃー、私に武士や日本史のことなんて聞かないでね、とすぐにお願い。ものすごい才女であることは明白だが、大変気さくな方だったので、私も気軽に話せた。
笑ったのが、「フィンランド人はサウナばっかり入って仕事をしない」と女史。フィンランド人のCさんとPも苦笑。「だからオリンピックでも銀ばっかりで金メダルを取れないのよ」とばっさり。「サウナに入る暇があったら、もっと技術を磨くために努力をするべきだってレポート書いて、新聞社に送ってみようかしら」 言っていることはきついようだが、言い方がきつくないので、ただおかしい。
全員ぶっとんだのが、全然料理ができないというH女史は、娘さんが幼い頃「スパゲッティが食べたい」というので、作り方がわからないながらもスパゲッティをゆでて、上に砂糖をかけて食卓に出した、というのだ。ケチャップそのまま、くらいなら理解できるが、なんで砂糖なのだ。娘さんは、スパゲッティはそんなものだと思って育ち、友達の家に行って初めて「うちのお母さんの出す食事はおかしい」ということに気づいたらしい。しかし、今25歳になる娘さんは、子供の頃に食べた思い出の料理ということで、いまだに結構スパゲッティの砂糖合えが好きらしい。ちなみに彼女も全然料理はできないらしい。「だって、まともな料理する人を見て育ってないわけだから、できるようになるわけないのよ」とあっさりH女史。豪快だ。
お二人とも餃子がおいしいとほめてくれる。いやあもうなんだか申し訳ない。申し訳ないと思いながらも、あんまりそれを態度に出すと感じ悪いと思って、しらっと"I'm glad you like them"と流しておいた。心の中では「ひーっ」と絶叫していたのだが。
11時も過ぎたのだが、お酒とワインの入ったH女史は高速でおしゃべりを続ける。10時には眠くなるというPのベッドタイムはとうに過ぎている。「悪いがもう君らを追い返す」と宣言。Pが上司ということになるから言ってもいいのか。紳士のCさんは、Kay,ありがとう、とてもおいしい食事だった、と笑顔でおっしゃり去っていった。礼儀正しいなあ。H女史は毛皮のコートを羽織り、「今回フィンランドに来て、もう5枚コートを買ったの」と笑う。どこまでも豪快な女性だ。「フィンランドに来て一番おいしい食事だったわ」と言い、私をハグしてタクシーに乗って去っていった。スパゲッティに砂糖かける人だから、easy to impressだわなあ。

で、本当は今日アメリカに帰るはずの彼女だったのだが、飛行機に乗り遅れて明日帰国ということになったらしい。飛行機に遅れそう、と会社で気づき、時速180km/hでぶっとばして飛行場まで送ったのがP。でも結局間に合わなかったらしい。「もし警察に捕まっていたら、絶対免許取り消しになって、車も取り上げられてた」とP. こういうexcitingなことをするのがだーいすきな男だから、大変だったといいつつ、楽しかったに違いない。長生きせんだろうな、こいつは。しかしH女史、人騒がせだが、傍から見てるにはおもしろいわ。