Pのいないアパートで一人パソコンに向かっていた。突然、コンコンコン、と音がする。パソコンを打つ手をとめて、顔をあげる。コンコンコン。Somebody is at the door? またコンコンコン。キツツキかなんか外の木に止まっているのか。いてもおかしくない環境。木はそこらじゅうにある。しかし、三回コンコンコンとやっては静まる。
そこで気がつく。携帯電話の呼び出し音じゃん。昨日まで設定していたメロディーがやかましいので、今朝less annoyingな音を探して変更したのであった。ぶははと笑いながらPからの電話に出る。キツツキかと思った、とPに言うと爆笑していた。
大体携帯電話の呼び出し音というのが昔からものすごーく嫌いである。フィンランドにいる間だけ、Pのスペアの携帯を持たされているのだが、なるべく神経に障らない音を選ぶのに苦労した。ろくなセレクションがないのだが、とりあえず他よりはマシ、というメロディを設定していた。だが、それもだんだんいやになって、こうなったら連続メロディではなく、SMSメッセージが届いたとき用の短いシグナルみたいなシリーズから選ぼうと決めて、コンコンコン、とノックのような音を選んだのだった。これなら不快なアラーム音のようではないので、鳴ったとたんにしかめっ面をするということはあるまい、と思って。確かにしかめっ面どころか、キョトン、だったわ。
まあ、そもそも携帯電話というものが好きではないのだ。電話というものは用事があるときに使うか、久しく会っていない人とたまにおしゃべりするために使うものだと思っている。町で携帯で話しながら歩いている人たちというのは、どんなに緊急な用事で忙しい人たちなのだと日ごろから思っていたが、9割がたは全然忙しくないということに気づいた。そんなに即刻相手に連絡を取らねばならないという状況はなかなかない。大体Pからの電話がそうである。毎日顔をあわせているのである。なのに朝家を出てからしょっちゅう電話がかかってくる。私が電話人間ではないことを知っているのに、っどーでもいいようなことを言いに電話をしてくる。こちらが、ふーん、あっそう、という返事しかしないと、「ほんとに電話嫌いなんだな」と言う。と言いながら、「じゃ、会社出る前に電話する」と言うので、「必要ない」と答える私。すみません、冷たくて。「でなくていいよっ。一回鳴らして切るからっ」と怒ってました、P。
そして、今、まさにPから電話。「前回来たときにオペラハウスの近くを散歩していて、レストランが途中にあったの覚えているか」といきなり言う。ああ、そういえば閉まってたけどメニューを見たりしたね、と答えると、そのレストランはフィンランドらしい料理をserveするし、雰囲気もなかなかよいのだと言う。話を聞きながら私は考える。明日の晩、ロシア料理店の予約をしているのだが、それをキャンセルしてこのフィンランド料理に変えたいということなのだろうか。「We should definitely go there」と彼が言うので、ロシア料理の代わりに?と聞くと、いや、いつか、と返事。・・・理解できない。じゃ、なんで今電話してくる必要があるのだ。「それ、緊急に携帯で今伝えなきゃいけないようなことかね」と聞くと、「もちろんだ。今言わないと、家に帰ったら忘れてしまって、Kayはこのレストランに行くことはないかもしれない。」ふーん。「あ、もう行かなきゃ。じゃね」と言って、運転中のPは電話を切るわけ。なんかこう、大切な一人の時間を邪魔されたような気分になってしまうのは、私がわがままなんすかね。レストランを見つけて、いつか私を連れて行ってやろうと思ってくれてるわけだから、「えー、本当、いきたーい、ありがとう、約束よん」とかかわいく反応すべきなんだろうか。キャラじゃないな。うーん、だがもうちっと柔軟性を身に着けてもばちはあたらんな、私。