私たちが乗るアンティーク車両は普通の列車に連結された最後尾の2両、だったと思う。3両ってことはなかっただろう。私たちが乗車しているとき、一般車両と勘違いして一緒に乗ろうとする客がいた。するとお母さんがすごい剣幕で、「これはプライベートで私たちが貸し切ってるんだから、あなたは乗れませんっ!」と言う。その人が謝って去っていくと、お母さんは「まったく」みたいな感じで頭を左右に振っていた。なんか感じ悪いなあ、あの人がそんなこと知る由もないじゃない、と思いつつ私はだまって乗り込む。

車内は、入り口を入るとすぐに応接間。ここが最後尾になっており、入って右にあるドアからデッキに出られるようになっている。左へ続く廊下沿いにベッドが並ぶ小さな寝室がいくつかあり、突き当たりに食堂、奥に台所があった。当然トイレもあり、シャワーもついていた。インテリアは詳しくは覚えていないが、こげ茶の木の壁や、品のいい家具が置いてあり、落ち着いた雰囲気だった。

いよいよ発車。まずそのトロさに唖然。おまけに何のためか知らないが、しょっちゅう長い間停車する。動き始めたかと思うと止まる。これじゃ9時間かかるのも無理ないと納得。

その日は晴天で暑かったが、冷房が壊れていて使えなかった。お母さんによると、メンテの乗務員がいやがらせのためにわざとこういうことをしたと言う。このアンティーク車両を連結したことに他の乗務員はよい感情を持っていないというのが彼女の意見であった。私たちがこういうことをするのを妬んでいるのよ、とのことであった。料理人が作っておいたパイがカウンターから落ちて台無しになったのは、連結するときにわざと強く衝突させたからだとか、前の車両のトイレから排泄物を外に捨てながら走るのは、後ろにいる私たちへのいやがらせだとか、色々言ってぷりぷりしていた。本当かどうかは知らない。

午前中は皆興奮して、色々見て回って遊んだ。お昼は食堂でコース料理。そのときに家族からの卒業プレゼントが渡された。プレゼントはアンティーク列車の旅と高級ホテルでの泊りがけのパーティーだけじゃないのだ。両親から真珠のネックレスとビデオカメラ、祖父母から現金1000ドル、恋人からはダイアモンドのペンダントだった。この恋人は駆け出しのカメラマンで、あまり自由になるお金もなかったのだが、かなり無理してこのプレゼントを用意したらしい。二人は結婚も考えていたようだし、彼はとても好青年でスーの親にも好かれてはいたが、彼がいないところで、お母さんが彼の経済状況についてスーをからかうのがいやだった(結婚式は新郎側と新婦側のどちらが払うのか、という話が出たとき、「新郎側だったらどんな結婚式になることやら」と言って一人爆笑するとか)。スーは困ったように笑うくらいだったが、あたしだったら耐えられないなと思った。

ちなみに私は前の晩、香水を入れるボトルをプレゼントした。学生の私に高級品は買えなかったが、ま、気持ち。

昼食が済むと、お腹いっぱいだし暑いしで、妹のセーラを除くみんなは昼寝をした。彼女の学校はまだ終わっておらず、レポートの宿題が出ているということで、えらく不機嫌だった。食堂のテーブルに本とノートを広げて、何を書いていいかわからないと叫びながらイライラしていた。家を出るときから変で、リモのドライバーがヤクをしているに違いない、絶対匂った、あいつの口のきき方はなってないなどとキーキー言っていた。誰か攻撃する相手が欲しいらしく、私がつけていたゴールドのネックレスを見て、「そのゴールド本物?なわけないよね」などと言って私を挑発しようとしていた。以前会ったときは、決してこういう不愉快なことを言う女ではなかった。スーの妹だけあって感じがいいなと思ったくらいだったので、腹が立つというよりも驚いた。姉が親や恋人からこんな盛大にお祝いしてもらう姿を見て、セーラはおもしろくないのだろうと推測した。彼女がこのような卒業祝いをしてもらうにはまず大学に入るということからしなければならない。スーは彼女にないものを得て、親から褒められ、プレゼントの山に囲まれて笑っている。私の推測が考えすぎということであれば、セーラはもともとただの甘やかされたいやな女ということになる。この姉妹の仲は良かったが、姉ばかりに注意がいくこの日は、セーラは単なるすねたガキであった。その子供っぽさを哀れに思いながら、キーキーまた何をわめかれるかわからないので、私も昼寝組に加わった。
まだまだ続く。