帰国便では、いつもの通りベジタリアンミールをお願いしていた。レギュラーミールよりも少しは食べられるものがある場合が多いのでそうしている。
レギュラーミールのチョイスは、ホウレンソウのリゾットかチキンであった。フィンランド人乗務員が、どっちがいいかと聞いてきたので、スペシャルミールをお願いしてます、と答えると、カートを探すも見当たらない。ちょっと待っててちょうだい、と言われ、隣の女性に「あなたはリゾットとチキンとどっち?」と聞く。女性は、「私もスペシャルミールなんですが」と返事。彼女のも見当たらない。後でまた来るわ、と乗務員は次の列の人たちに食事を配り始めた。
しばらくすると、後ろから「Spinach risotto for you!」とトレイが渡されてきた。「へ?」と思ったが、お礼を言って受け取った。隣の女性にもリゾットが渡された。スペシャルミールには、座席番号、名前、ミールの種類が印刷されたステッカーが貼られているものなのだが、何もない。サラダにもスモークサーモンがのっている。これは、明らかにベジタリアンではない。隣の人もトレイをじーっと見たまま、食べようとしない。
「あのー、ベジタリアンミールを頼まれてたんですか」と声をかけてみた。女性は、「はい。これ、ただのリゾットですよね」と不機嫌な声。
変な話なので、コールボタンで乗務員を呼んでみた。日本人乗務員が現れたので、事情を説明すると、「今、欲しいものがなかったという意味ですか」と聞かれる。違うってば。なんでそういう返事になるのか不思議だが、リゾットが欲しかったのにチキンしかなかったとか、そういう話で文句を言っているのではない。二人とも事前にスペシャルミールを頼んでいたのに、探すと言われて結局渡されたのは、レギュラーミールなのだと再度説明。待っていくてくれと言われ、またしばし待つ。
飲み物を配っていた別の日本人乗務員が戻ってきて、申し訳ないと平身低頭で謝る。「今、お客様にお食事をお渡しした乗務員に事情を問いただしましたら・・・」と説明開始。彼女の柔らかい丁寧さと「問いただす」という言葉の選択が可笑しくて、私は笑いをこらえる。どうやら、フィンランド人乗務員は、スペシャルミールを探してみたものの、見当たらなかったので、肉の入っていないリゾットの方を渡しておこうと判断したらしい。それにしても、座席の後ろから肩越しに渡してきたのもさすがである。日本人乗務員は、こんなことになって本当に申し訳ないと、よかったらリゾットをお召し上がりくださいと言う。
お腹が空いていたので、とりあえずクラッカーを開けて食べ始めた私。すると、乗務員が隣の人のスペシャルミールを持って現れてきた。違った座席番号が書かれていたらしい。もう、まったくもって恥ずかしい、こんな体たらくで申し訳ない、とハラキリでもしそうな恐縮ぶりの乗務員。隣の人のミールが出てきたので、私のもどこかに紛れ込んでいる可能性はある。
そして、出てきた。やはり違う座席番号になっていた。さらに恐縮しきった乗務員。リゾットのトレイを片付けるとき、「クラッカーだけいただきました。すみません」と言うと、泣きそうな顔で「よろしかったらこちらのサーモンも、いかがですか?」と勧める。あんまり申し訳なく思っているようなので、こっちが気の毒になってきた。
座席番号を間違いに加え、リゾットでごまかそうとした乗務員のフォローまでさせられた日本人乗務員は、本当にお疲れ様である。
「問いただす発言」は、今思い出しても笑ってしまう。