「今日は節分と言って、豆まきをする日なのだ。鬼は出てけってね」と説明すると、ニーッと笑いながら、私に豆をまくジェスチャーをしたP。そんな男と結婚してきた。

役所では、水曜日と金曜日しか挙式が出来ないということで、Pの仕事の都合上、今日金曜日の午後を予約。証人が二人必要なので、役所の人になってもらえるか問い合わせたところ、prenupの署名を役所で署名するならいいよ、という返事。prenupの署名と婚姻の証人の関係がよくわからなかったが、とにかく証人になってくれることらしいので助かった。

マイナス13度の中、ぺらぺらのワンピースにストッキングを身につけ、そして腰にはカイロを貼り、ショートブーツを履く。おしゃれなパンプスは袋に入れて持っていく。玄関から車まで、足が切れそうだった。「マイナス13度ごときで切れそうとは大げさ」とPは笑うが、「スカートとストッキング姿になってからその台詞は言いたまえ」と私。挙式にバルキータイツってわけにもいかんだろう。

役所では、まずprenupに署名。これも二人の証人がいるらしく、公証役場コーナー(同じオフィスにあるので便利)の担当職員のブースで署名するときになって、隣のブースの職員がスーッと無言で現れ、我々が署名するのを見ていた。慣れたものである。

その後、式を行う場所へ移動し、結婚証明書の言語を決め(英語一枚、フィンランド語一枚にしてもらった)、結婚後の苗字の届出に署名し(夫婦別姓)、しばし待つ。

こちらへどうぞ、と女性二人が案内してくれた部屋には、robeを着た女性がおり、彼女が英語で式を執り行ってくれた。ありがたい。引っ越してきたら、ちゃんと言葉の勉強するから(すぐしないのか)。まずはPの母国語であるスウェーデン語からやろうと思っている。思い続けて何年。

女性の読む、重みのある誓いの言葉に「はいはい」と返事をし(句点を入れないとニュアンスが変わる。二人あわせて二回の「はい」)、指輪を交換し、「これで夫婦よ」と言われておしまい。3分で式終了。

婚約指輪と結婚指輪の事情は、フィンランドと日本(=アメリカ様式)では異なる。フィンランドの婚約指輪は、日本人が思う結婚指輪のようなシンプルなbandであり、男女共に身に着ける。結婚指輪は、石(多くの場合、ダイヤモンド)を入れたものを女性だけがもらうというのが一般的らしい。我々は、Pにも結婚指輪として、婚約指輪のbandに後からもう一つシンプルなものをくっつけようと計画していた(have them welded together)。だが、頼んだ宝石店の人が、くっつけてしまうと指が難しくなりそうなので、別々の方がいいだろうと判断し、結局Pも二つの指輪をすることとなった。一つ一つがこちらの男性の指輪としては細いので、見た目は一つの指輪をしているように見える。ということで、今日の式では、「では指輪の交換を」と言われ、Pがズボンのポケットから裸のままの二人の結婚指輪を出し、お互いの指にはめたのであった。リングクッションなど、ドリーミーなものは我々の式には不要である。ドライでプラクティカルに。

挙式後、すぐに結婚証明書をくれた。英語の方を公証役場コーナーへ持って行き、公証印とアポスティーユをもらった。日本の区役所に婚姻届を出すときのためである。アポスティーユは原本につけるのと、正式なコピーにつけるのとどっちがいいか聞かれたので、コピーにしてもらった。16ユーロ也。

いやー、必要なことがすべて同じ場所で出来るというのは、実に便利だ。

メールで父に結婚したことを報告したら、「マジで安心した」という返事が来た。これまで、私の生き方に一切何も言わなかった両親だが、やっぱり心配していたのね、とちと申し訳なかった。

明日、Pは海外出張へ。その翌日、私は帰国。「誓います。じゃ、また。」と、まさにギリギリで間に合った婚姻であった。