「奥様、髪がちょっとボリュームがあるようなので、後ろを少しばかり抑え気味に整えていただけると・・・、はい、結構です」
「奥様、照れ笑いくらいの笑顔で」
「奥様、リラーっクス、リラーっクス」
「奥様、お膝をちょっとゆるめる感じで、はい、結構です」
「奥様、ちょっとお顔がまじめになる傾向がございますので、リラーックス」

This is why I don't like being photographed.

カメラマンは汗をたらたら流しながら、カメラと私とPの間を小走りに移動し、私のワンピースのシワを直し、足の角度を直し、両手の組み方を調整し、ピアスが見えるように髪の毛を後ろへ流し、私がリラックスするようにとおかしな動きをして笑わせ、大忙しのプロであった。2枚の写真を撮るのに1時間。

髪はまとめていけばよかった。自分で巻いただけで、そう本気を出してきれいにしたわけでもなく、カメラマンは「ボリュームのある」と上手に言っていたが、要するにmessyだったのである。
笑い方がまた問題になる。私は歯を全部出してガッと笑うアメリカンスマイルか、むすっとまじめな顔しか出来ないのだ。「照れ笑いくらいで」と言われても、難しいのである。日本では、きっと女性は照れ笑いくらいの控えめな感じが良いとされているのだと思うが、これがアメリカならガッと笑っても全然かまわないはずである。あたし、照れてもガッと笑うし。

座っているときのポーズを決めるとき、カメラマンは言う。「どのポーズにしようかなあ。お二人の関係性をあらわすというか・・・」 
まずは、Pが自分の膝の上に手の平を上にして手を置き、そこに私が軽く手を添えるというポーズ。「奥様を受け入れるという感じで」ということらしい。カメラマンは、小走りで一度カメラの位置まで下がってそのポーズを確認し、またもどってきて、「では、こうしてみましょう」と、Pの手の向きを変え、手の平を下にして軽く握って置くようにし、その手の甲に私が軽く手を添えるというポーズ。結局このポーズに決定したのだが、このポーズが象徴する「二人の関係性」というのは、「あたしがPをたしなめる」という感じですか。ポーズを取っている最中は、何が何やらで言われるままにしていたが、なんだか私がPに手を添えているのに、Pが無視している感じにも見えないか。二人で手をつないでいるポーズの方が良かったかな。
つーか、どっちもクサイな。
写真館での写真というのは、こういうものなのだろうか。やっぱり、スナップショットで自然に撮られる方が楽だ。
カメラマンは、細かいところまで一生懸命で、プロ意識の高い人であった。当然、いまどきデジタルなので、何枚か撮った写真の中から、最終的に一番良いと思われるものを選ぶ。良い時代だ。最初に撮ったガチガチの笑顔の写真と、最後に撮った多少はリラックスした写真を比べて、「ほら、笑顔が違いますね」と実に嬉しそうなカメラマン。
私も場数を踏めば、もっと自然な「照れ笑い」程度の笑顔が出来るようになるのだろうか。みゃー。