石亭に泊まった日は、利用者が少ない時期だったのか、温泉のお風呂では2、3人の女性と入れ違いになっただけで、贅沢にも貸切り状態であった。露天風呂に入ったり、内湯(といっても、半分外みたいな感じ)に入ったり、ちょっと浮かんでみたり、と楽しんだ。

入浴後、ドライヤーで髪を乾かしていたら、年配の女性が入ってきて、「お風呂はどこですか」と聞いてきた。「外にあります。洗い場はこちらです」と案内し、またドライヤーをつけたら、「東京からですか?」と話しかけてきた。ドライヤーを消し、いえ、広島市内なんですよ、とちょっと話をし、またドライヤーをつけた。しかし、女性は話すことをやめない。ドライヤーをつけたり消したりしながら、しばらく会話をしたのであった。「ガイジンさんもいましたよ」と女性が言うので、「背の高い男性でしたか」と聞くと、そうだと言うので、それは私の連れだ、と説明。この時点で女性は既に裸になっているわけだが、手ぬぐいを前にたらし、シャワーキャップをかぶった状態で、「まあ、そうですか。どちらの方?」とまだ話が続いたのであった。おもしろい。

お風呂のあとは、ラウンジでよく冷えた広島の地酒の利き酒をした。可愛いボトルに入った色々な種類のお酒が、氷を敷いたボウルに入れてある。宿泊者は自由に飲める。その中から好きなお酒を夕食のときに頼めるわけである。利き酒ができるというのが、実に良いアイディアではないか。

石亭には、床下サロンと呼ばれる、庭を臨むライブラリーのような空間がある。
石亭のサイトより拝借。
夕食後、Pと行ってみようと、まずは庭に下りた。庭からしか入れない部屋なのである。サロンには男性が二人いたので、お邪魔かなあと私は遠慮し、Pは「なんでだ。入ろう」とサロンに近づいていったところ、中の男性が扉を開けて、「どうぞどうぞ。こちらが特等席ですから」と案内までしてくれた。どうやら宿の人だったようで、もしかしたらオーナーだったのかもしれない。「どうぞごゆっくり」と言って、二人とも出て行ってしまった。
サロンには、小さな音でオペラが流れていた。たくさんCDがあり、どれでも好きなのをかけてもよい。本も山ほどある。インテリアの本を選び、しゃれた椅子に座って、間接照明の落ち着く空間でページをめくる。片手にはバーボン。数種類のウィスキーとグラスがテーブルに置いてあったのだ。はー、こういう部屋が家にも欲しい。

Pは、このサロンと貸切り風呂が特に気に入ったようであった。

私は全部気に入ったが、一番良かったのは、床暖房かな。畳の床暖房というのを初めて経験したのだが、もう気分は猫。ごろごろポカポカと至福のときであった。冬の石亭では、あなたも猫になれる。