ばあ様は耳が激しく遠いので、私は耳の近くに顔をつけて話をする。彼女がベッドに寝ていようが座っていようが、どうしても頭を下げる姿勢になってしまうので、そのたびに根管治療中の前歯がずきずき痛い。アルプスで使う長いホルンみたいなメガホンないかな。いや、こうなったら糸電話か。
ばあ様の夕食時にいつも行っているのだが、この病院の食事は実においしそうである。いつも私は看護師さんが配ってくれるトレイを見て、「わー、ご馳走!」と心から感心して口に出してしまう。今日は、レンコンとエビの天ぷら、酢の物、ごぼうの金平、デザートはメロンであった。私にもください。
減塩食なのであるが、ばあ様はおいしいおいしいと言って食べるときと、「ちょっと、醤油かマヨネーズない?味が全然無い」と不機嫌に言うときと色々である。おそらく彼女の機嫌によるところも大きいのではと思う。文句を言いながらも、いつも平らげている。すごいことである。
術後1週間経ち、リハビリで歩いたりもしているらしい。でもリハビリしていることも忘れている。
手術の日から個室だったのだが、今日は元の二人部屋へ移動した。以前のルームメイトの中村さんはもうおらず、別の女性がいらした。姿は見えなかったが、私の気配を感じて、「ひろこちゃん?ひろこちゃんったら」と何度も言ってらして、どうしたものやらと思ったが、無視しておいた。
個室だとやはり気楽だなとは思うが、あの部屋は手術をした人を順繰りに入れるらしい。詰め所のすぐそばだし。今日のばあ様は物静かでしおらしくしていたので、こちらもそれほど話をすることなく、歯のズキズキもあまり感じずに済んだ。
で、今日の私の夕食は、帰りにスーパーで買った冷麺とフルーツの盛り合わせである。まあ、それはそれでおいしかったよ。でも天ぷらも食べたい。