先週だったか、ばあ様に毛糸を6玉渡したのだが、一向に編む気配はなかった。「毛糸どうした?」と昨日聞いたところ、「毛糸?」ときれいさっぱり毛糸のことは忘れおり、どこにしまったかもわからなくなっていた。「もうこのババはこれだからね」と自分で自分の忘れっぽさを嘆く97歳のばあ様。
毛糸は戸棚に入れてあった。以前、かぎ針でショールを編んでいたのでかぎ針を一緒に渡していたのだが、「私はかぎ針はしたことがない」と言う。ここで否定してはいけない。「ふうん。じゃ、棒針持ってくるわ」と返事し、今日持っていった。
「これ」と針を渡すと、「え?くれるん?」と聞く。悪いが、あげるつもりはない。「貸してあげる」と言い、「毛糸は?」と聞くと、「・・・。どこへしまったかね」とまたサーチ。昨日とは別の戸棚にしまってあった。「昔はよく編んだけど、こう年を取ると、なんというか、根気がなくなるというか、編む気がなくなるというか、あ〜、年は取りたくないものよ。何がいいって、若いのが一番いいよ。まさか自分がこんなになるとは思わんかったね〜。満州におった頃は・・・」とまた昔話が始まった。自分じゃ編み始めないと判断した私は、とりあえずマフラーを編むくらいの作り目をして、「はい」と渡した。ばあ様は素直に受け取り、「ガーターでいい?」と聞く。なんでもどうぞ、である。うんと頷くと、「満州におった頃はねえ」とまた同じ話をしながら、サッササッサと編み始めた。すごい、ばあ様。
延々と繰り返される話を本気で聞いていると狂うので、適当に相槌を打ちながら、私も持参した編みかけのマフラーを編んだ。ばあ様、編むのが早い。「年を取ると腰は痛くなるし、目は見えんくなるし」と嘆きながら、めがねもかけずに編んでいた。脅威だ。
明日以降、自発的に編み続けるかどうかは謎である。また戸棚にしまって、すっかり忘れてしまう可能性も高い。明日にはもうしあがってたりして。