玄関のドアをノックする音がした。以前もP宛の小包が届いたことがあったので、今回もサインをすればいいんだけだろうと思ってドアを開けた。小さいおじさんが立っていた。手にはワインが入っている感じの細長い紙袋。そういえば、クライアントからクリスマスプレゼントが届くはずとPが言っていたので、それに違いないと思ったが、おじさんはどうみてもプロの配達人ではない。もしかしてクライアント本人かしら、いや、だったらPにまず連絡するだろう、とちょっと混乱しながらおじさんの言葉を待った。おじさんは手に持っていた封書を見ながら、「ここはPさんの家ですか」と言った(たぶん)。ヨー、と頷き、既にその時点で紙袋を受け取ろうと手を差し出す私。封書を見ながらPの名前を言うなら、Pのことを知らないに違いない。クライアントのお使いの人だろうと勝手に判断。
お礼を言いながら紙袋と封書を受け取って、とっととドアを閉めようとした私だが、おじさんが何かまた言った。全然わからなかったので、"I'm sorry?"と聞き返したら、"P, home?"と言う。おじさんの英語も私のフィンランド語も片言である。これはまずい。"イイエ、P、シゴト、イマ." "おー、ぺらぺらぺら" と何か言いながら、おじさんは握手をすべく手を差し伸べてきた。よくわからんが、私も笑顔で握手をしておいた。やっぱりこの人がクライアント本人なんだろうか。自己紹介をされたような気もするのだが、よくわからない。それくらいのフィンランド語はわかるはずなのだが、もう何が何やら。
クリスマスおめでとう、と言われたのはわかったので、私も繰り返しておいた。頭の中では、Pのクライアントからのギフトだとほぼ確信しているのだが、一応確認しておくべきと思い、紙袋を指差しながら、"えー、ダレデスカ?"と聞いた。単語のチョイスは完璧に間違っているのだが、おじさんはなんとかかんとか名前を言った。よく聞き取れなかったというか、覚え切れなかったのだが、「クリスマスカードもくれてるんだから、そこに書いてあるだろう」とわかったふりをした。もしかしたら、「中身は何?」と聞いたと思い、ワインかシャンペンの名前を言った、というケースは考えられるだろうか。情けなさ過ぎる状況。
おじさんはまた笑顔で、クリスマスおめでとう、と言って、手を振って去っていった。あなたは誰。