鍋はおいしい。だがちと苦手だ。あらゆる人の箸があの鍋に浸かる、というのがいやなのだ。家族ならまだいいのかもしれない。私は家で鍋をしたことない家庭に育ったので、その感覚はわからない。
大体、「鍋」を初めて食べたのは、大学休学中に日本の英会話学校でバイトしているときだったかもしれない。冬に「社長」(学校屋だから)がスタッフ全員を連れて、チゲ鍋を食べに連れて行ってくれたのだ。チゲ鍋を食べたのも初めてであった。おいしいものだなと思った。だが、頭も口も軽い中年オヤジの「社長」がつけた箸もどっぷり鍋に入るわ、「風邪気味だからこういう辛いのがききそう」と嬉しげに箸を浸けるマネージャーの女や、そうすれば可愛いと思われると勘違いしているのか、箸の先を軽く口元に置いたまま、自分が鍋に箸を入れるタイミングを待っている30過ぎの女とか、一気に食欲は失せたのであった。なんつーか、皆さん、寛容だなと思った。
寒くなると店に鍋が並び始め、それを見ると、ああ、あったまっていいな、と思うのではあるが、買うまでには至らないのであった。
「直箸厳禁」というルールの元ならいいけどね。一度、東京でPと石狩鍋を食べたことがあるが(なぜに北海道のものを)、取り箸とお玉がついてきていたので、それらを使ってよそって食べた。まあ、Pとなら直箸でもかまわんといえばかまわんが、やっぱりなんだか感じ悪いような気もするのだ(相手にも)。