買い物帰りに荷物が多くなってので、久々にタクシーに乗った。運転手は白髪頭のおじさん。私はタクシーの運転手に話しかけられると、大抵の場合は相手をする。軽薄な物言いをする人や、どうでもいい話題を長々とする人には、相槌もほとんど打たないが、今回のおじさんは「日が短くなりましたねー」などと普通の会話である。「そうですねえ、昼間は30度まで上がっても、秋なんですよねえ」などと答える私。
家の近くまで来て、「そこの信号の手前を左折してください」とナビ。だが、前の車が進むのを待っていたら、その信号が赤になってしまった。あと一台分進んでいたらすぐに曲がれたのに。「あら、曲がれませんね。すぐだからここでいいです」と言うと、運転手はすぐにメーターを止めて、「あ、ええですよ、お客さん、乗っといてください。メーターは止めましたけーね。960円です」と言うではないか。千円札を手に持っていた私は、「あ、じゃお釣りいいです」とお金を置いた。おじさんは「いやあ、そりゃあどうも」と笑い、私も「ほんのちょっとですが」と笑った。
「たくさん買い物をされたんですねえ」と言うので、「大きいものを買ったのでかさばっちゃって。旅行かばんなんです」と答える。キャリーケースを買ったのだ。運転手は、「ああ、これから旅行にはええ季節ですねえ。うちの娘が今度12月に結婚するんですが、それまでに家族で旅行へ行こうかあ、言いよるんですよ」と楽しそうに話す。仲良しの家族なんだなあ、とほのぼの。
タクシーを降りるときも、紙袋の取っ手に引っ掛けるフックがうまくかからなくてあたふたしていたら、「ゆっくり降りてくださいよ、急がんでもええですよ」と言ってくれる親切な人であった。40円のチップをもらったから優しいわけではあるまい。こういう人に会うと、自分も人に親切にしないといかんなあと思う。
でもすぐ忘れんのよ。