この冬一番の寒気が来るらしい。ここ広島にもあさってから雪マークがついている。低温になると水道管の破裂が恐い。去年、低温注意報が出たとき、破裂しては大変だと思い、凍結予防のために一晩中少しずつ水を出しっぱなしにしておいた。無事何事もなかったが、そこまで心配する必要があったかどうかは謎。確かマイナス5度くらいになったのだったか。
私がなぜここまで恐がるかというと、破裂の経験があるのだ。もうずっと昔で中学2年のときの話だが、あれは一生忘れない。one of the most shocking experiences of my lifeである。当時は広島には住んでおらず、他県のド田舎の中学に通っていた。その冬はとても寒くて、北国でもないのに朝はマイナス9度まで下がった日もあった。
12月に新築した家に引っ越して新しい生活にも落ち着いた3月。夕方、学校から帰って玄関を開けると、玄関マットがぷかぷかと浮いている。人間、あまりにunexpectedな光景を見ると、一瞬固まるということを学んだ。玄関ホールが水浸しになっているではないか。とっさに、お風呂!と思い、靴のままあがって、浴室へ直行したが、水道から水は出ていない。えー、えー、なんでなんで、と玄関へ戻って、階段を見上げると、わーー、水が滝のように流れ落ちている。なんだなんだと足元を濡らしながら二階へダッシュしてみると、トイレから水が出ている。急いでドアを開けると、パイプが継ぎ目でずれていて、そこから勢いよく水が噴き出しているのだ。ひー、なんだこれは、ととりあえずドアをしっかり閉め、すぐ両親に電話。職場が同じなので、父か母、どちらか至急お願いしますっとオペレーターにうわずった声で言う。出てきた父に、家が水浸しになっていることをあせって伝えると、「庭にある止水栓を閉めなさい」とえらく落ち着いた声で指示され、止水栓のことを知っていたのにそれを思いつかなかった私は、「あ、そうか!」と大声で叫び、水しぶきを上げながら階段を降り、庭に飛び出て止水栓を閉めたのであった。すぐにまたドタドタと靴のまま二階へ上がり、水が止まっていることを確認し、またholdしていた電話を取って、「水は止まったよ。」と報告。すぐに帰るから、ということで、一応安心して電話を切り、二階の自分の部屋に入った。トイレから離れているし、ドアの間仕切りがあるので、それほど水は入っていない。これは動きやすい服に着替えた方がいいかも、とジャージに着替え、玄関に下りて長靴に履き替えた。家の中を長靴でぴしゃぴしゃ音をたてながら歩くってシュールな経験。
しばらくしたら両親が帰宅し、「うっわー」と二人はショックを隠せない。だって新築3ヶ月目。一階の天井からは水がポタポタ落ちている。とりあえず、二階のホールの洪水状態をなんとかしよう、と言うことで、各自洗面器やバケツ、雑巾を持って、水をすくっては捨て、を繰り返した。夜遅くまでがんばって、なんとか水は引いた状態になり、天井や壁紙のことは明日心配しよう、ということでその日は寝た。
次の日以降のことは詳しくは覚えていない。一階の天井の水を出すのにどうしたのかも記憶にないが、数枚天井の板をはがしたのだったか。その後もまだ水分が残っているだろうということで、天井の板にキリで穴を開けて、ティッシュをつっこんでいたのは覚えている。白いティッシュが天井からぶらさっがってんだよ、照る照る坊主みたいに。母は「白いこうもりが止まってるみたい」と笑っていた。悲惨な状況だったのに、家族の雰囲気はあんまり悲惨だった記憶がない。笑うしかない心境だったのかもしれない。
結局、壁紙と天井を張り替え、リビングのピアノにも水がかかっていたのでしばらくふたを開けて乾かした後チューニングを頼み、莫大な水道代を払い、我が家はこれまでより熱心に天気予報を見るようになったのであった。
水道管を直しにきた業者の人が、「マイナス4度くらいだったら大丈夫なんですが、この間の9度はねー」と言っていたらしい。3月にマイナス9度だからね。異常に寒かった。結局、夜の間にトイレのパイプに残った水が凍り、昼間それが融けて膨張し、パイプの継ぎ目がずりっと外れたわけだ。なんで一階のトイレじゃなくて、二階のトイレなんだよ。一階だったら床が濡れただけで済んだのに。あの日以降、冬になると、うちでは寝る前にパイプの水抜きをし、出かける前は止水栓を閉めることを日課としたのであった。

学校でクラスメートにこのことを言うと、水洗トイレじゃない家の子が多くて、「二階にトイレがあるなんて臭ーい」とまで言われた。臭いようなトイレじゃないっつーの。恐ろしい環境にいたものよ。