映画のワンシーンで言っていたことなので、その真偽はわからないが、mild traumaが原因でバイリンガルの人が記憶喪失になると、母国語は覚えているが、second languageの方は忘れてしまうというのだ。それは困る。まあ、記憶喪失になってしまったという時点で、言語がどうこう言ってる場合ではないくらい大変なわけだが、私の場合、英語をすっかり忘れてしまうということとなれば、あれだけの苦労が水の泡である。英語を身につける過程で経験した屈辱的なことや、悔しい思いや、泣きそうな思いに関しては忘れたいと常々思い続けてきたが、こういうselective amnesiaってのは無理ですかね。
スパニッシュ・アパートメント”って映画なんだが、20分くらい見てやめてしまった。フランス人の男が、バルセロナの大学院に留学するという話。外国の知らない街に一人到着し、見慣れない町並みに当惑し、各国からの留学生がシェアするアパートに住むためにインタビューを受け(スペインに留学しているのなら皆の共通語はスペイン語かと思いきや、なぜか英語)、講義が標準のスペイン語じゃなくてカタロニア語なのでわからないとか、アイデンティティの話とか、私が思い出したくないことのスペイン版を見せられたようで、途中で消してしまった。たぶん映画としてはおもしろいのだろうと思うが、言葉の壁ゆえに「何が起こっているかわからない」という不安感や、初めての街、それも外国にいるときの気持ちを久々に思い出して、タオルをしぼるように胃がねじれるような気持ちになった。解放されておらんのだね、16で成田で胃薬飲んで一人渡米したときのことから。
I have a recurring nightmare.アメリカの高校にあと1年通わなければならないという夢。大学を卒業しているのに、なぜに高校に戻らねばならんのだ、と訴えても、大学のことは関係ない、この高校でのcreditsを全部取っていないからだなどと言われ、またあの寮に住んであの制服を着て授業を受けなければならないという同じ夢を1年に1回くらい見る。やっぱりあれは小娘にとって強烈な経験だったわけね、とひとごとのように思ったりもする。16というとpeer pressureもあるし、勉強も嘘みたいに厳しくて忙しいし、みんながみんな親切な人ではないし(一番意地悪だったのは他に何人かいた日本人だったかもしれない)、初めは自分の言いたいことの半分も言えないし、授業が終わっても寮に住んでいれば学校の延長みたいなもので、気分転換もどうやっていいかわからず、24時間緊張して孤独でストレスためている生活であった。
で、ときどき自虐的になり、あの頃のことをわざわざ思い出すべく高校のサイトをのぞいてみたりするわけだが、この10月くらいにサイト内の同窓会に関するページを見て仰天した。今年の同窓会委員の写真が載っていて、名前を見ると一緒に授業を受けた子が何人かいるのだが、写真ではどの人なのかよくわからない。Because they've gotten so fat! あんなに可愛くてスリムだったあの子たちがこんなになってしまって、とまさにオーマイガッであった。そして反省したのだ。彼女たちがこれだけ大きくなるだけの月日が経っているというのに、私はいまだにあの頃のことに傷ついている。いい加減、前に進め、と。私の中では、昨日のことのようにビビッドな思い出だが、実際もう20年以上経っておるのだ。結局、数々の強烈にいやだったことは誰にも話していないから、心の中で腐って残っているのである。自分のわがままで留学させてもらって親にも悪いと思っていたので、あんまりいやなことは話さないようにしていたし、表面的には明るくハッピーなふりをしていたりもしたが(これがいかん)、本当に心を開いて悩みを話せる友達もいなかった。比較的楽しかったことだけ思い出すようにすれば、いやだったことを忘れるかとも思ったが、全然忘れていない。記憶喪失になりたい、と思いながら泣いたこともあるが、それで英語忘れたら元も子もないじゃないか。冗談じゃないわ。

ということで、心の大掃除も必要な私であるが、とりあえず窓拭こう。