美容師のKさんに髪を乾かしてもらいながら、「学生時代、数学のクラスで・・・」と話をしたら、「え、Kayさん、医学部だったんですか?」と聞かれた。なぜだ。ドライヤーの音で聞き間違えたのだと思うが、なんと聞こえたのだろう。なぞだ。このような場合、私はその場で、なんで?と聞くことがほとんどなく、後になっても引き続き不思議がっていることが多い。相手が何かとてつもない勘違いをしていて、それを正すと恥ずかしがりはしまいか、と考えてしまい、聞くのを躊躇してしまうのだ。そんなの考えすぎな上にいらんお世話だ、と言われればそれまでなのだが、以前そういう経験があり、相手の勘違いを正す際には、その勘違いが誰にでも起こりうることであり、not a big dealだということを極めて明るく伝える必要があることを学び、疲れるので何も言わないことにしたのだ。それが些細な勘違いの場合でも、である。
例を挙げる。以前の職場で一緒だったMが、アメリカ人にマフィンの元をもらったので作ってみたが、うちのオーブンでは温度が低すぎ、なのに出来上がりは焦げておいしくなかった、と言っていた。そ、それは、作り方に書いてある温度は「華氏」だから、と説明すると、顔を赤くし、あ、そうか、あたしって馬鹿、と言うのであるが、ものすごく恥ずかしかったらしく、その後無口になり、あたりの雰囲気がえらい緊張したものになってしまったのだ。私はそんなミスはとてもキュートだと思い、日本は摂氏だからうっかりしちゃうよねー、などと笑顔で言ってみたりしたのだが、相手が些細な失敗でも異様に恥ずかしがるタイプの人だと、何をどう言っても無駄なのだなと気づいたのだ。
Mの場合、他にも例がある。私の知らない別の部署のTのことを顔が美しくないだのなんだの、意味のわからない悪口をやたら言っていたので、ふうん、きっと馬が合わないのね、と聞き流していた。数ヵ月後、そのTがうちの部署に移動し、親しく話をするようになった。特に美しくない顔とも思わない。何かのおしゃべりをしているときにMの話になり、Tが「実はMさんのある騒ぎを目撃して以来、気まずくなってしまった」と言う。洗面所でMは差し歯を落とし、流れては大変、ということでビルのメンテの人を呼んだりして大騒ぎになったことがあるらしい。Tはたまたまその場に居合わせてしまったという。Tは人が困っているそのような状況を笑うような人とも思えなかったし、結局Mは、「Tに恥ずかしいところを見られた」→「Tは私のことを嗤っているに違いない」→「Tなんか嫌いだ」→私に悪口を言う、という構図なのかもな、と思った。そりゃTがその場で「きゃー、はっずかしー、メンテの人まで呼んじゃって迷惑ー」とか言ったんなら別だが、もしそうだったら、Mの悪口は「顔が美しくない」だけでは終わらなかったろう。ま、恥ずかしいのは理解できるが、それを笑える余裕のある人でありたいわね、と思う出来事であった。