これまで、実家の97歳のばあ様がしたこと言ったことでおもしろかったことを気楽に書いたことはあるものの、ここにきて笑えない状況になっている。いや、まだ笑えるし、笑ってないとやっていけないのだが、先月より、認知症の初期段階の治療を始めたのである。フィンランド滞在中にその旨を父からのメールで知った私は、「あちゃー、ついに」と思うと同時に、同居している両親がまいってしまわないかが心配になった。
今日、実家にフィンランドからのおみやげ(つっても、いつもどおりのチョコレートとジャム)を持って行ってきた。確かにばあ様は話の繰り返しが以前より激しくなっている。母の話によると、とにかくかまってほしいらしい。自分の具合が悪いということを何度もアピールしてくるとか。腰が悪くて針の先生に来てもらっているのは事実だが、もうほとんどというか、すっかり治ったようで、私から見ても動きが早い。両親より早いかもしれない。しかし、私と母が話をしている台所に何度も来ては、かぜを引いているとか、おしりが痛いとか、同じ話を繰り返し、自分の部屋に戻るときには「イツツツツッ」と腰を押さえて、さもつらそうに歩く。耳が激しく遠いので、私達が普通の音量で話しても聞こえないのをいいことに、私は母に「もしかしてあれ演技?」と聞くと、「そうよ」と母。母がばあ様の部屋に出入りするときは、必ずこの「イツツツツ」をやるらしい。
認知症の人というのは、食べ物を大量に食べてしまうため、少しずつ渡さないとだめだと、母は友人からアドバイスを受けたらしい。これはまったく本当だったようで、「みかんを買ってきて」と言われて一袋渡したところ、次の日にはもうなくなっていたんだと。11月まではこんなことなかったんだけどねえ。みかんを一袋も食べればお腹の具合も悪くなるわけで、「どうしてお腹が痛いんだろう」と不思議がっていたらしいばあ様。その次からは、母は「みかんは重いから一袋しか買ってこなかった。うちと半分こね」と、数個だけ渡しているらしい。そういうふうに言われれば、「まあ、いつも重いものばっかり頼んでごめんね」と至極まともな返事をしたというのだが、これには続きがあり、「2、3個あれば充分よ。せいぜい日に1個しか食べんから」と涼しい顔をして言ったらしい。
担当の医師は、「ほどほどにね。介護するほうがまいってしまいますよ」と母にアドバイスをしたというが、本当にその通りである。父は、しばらく調子が良かった血圧がまたあがってしまい、薬の服用を再開したとか。
早めにデイケアに連れて行くようにして、一日数時間でも両親が気楽に過ごす時間を取らないとだめだ。だが、このデイケアに連れて行くのがまた一苦労なのは目に見えている。ばあ様は、こういう知らない人が集まるところが嫌いである。まあ、私も集団でいることを楽しむ性格ではないので、気持ちはわからなくもない。
ばあ様がまだ元気で一人暮らしをしていた頃、独居老人の集まりがあるからと民生委員の人から毎月お誘いがあったらしいのだが、毎回曖昧に返事だけしておいて行かず、私に「行ったらカスタネットやタンバリンたたかされる」とカスタネットを叩くジェスチャーつきで言った人である。
デイケアに行くことになったら、最初は私が一緒に行ってもいいよと母に伝えておいた。実際、私自身、どういう感じのところなのか興味がある。
人と交流すると脳の活性化になるので、デイケアはばあ様にとっても良いと思うのだが、どう説得するかである。頑固だからね。まあ、そういうお年寄りは案外いるのではないかと思うので、区役所の人やデイケアの人に相談すれば良いのかもしれない。
私が実家にいると、注意が私に向いて、私が身に着けている手編みのマフラーや帽子の話になり、体調悪しアピールがしばしでもおさまるので、これからちょっと実家で過ごす時間を長くしようと思う。手を使うのも脳にいいので、毛糸と編み針を持って何か作るよう促そうかとも思っている。手芸はかなり好きだった人なので、興味を示してくれればいいのだが、「目が見えない」とか、色々理由をつけてしなさそうでもある。何かを編んでくれ、と頼むのがいいのかもしれない。よし、この線でいってみよう。