宇宙ステーションの若田さんには、個室の寝室が与えられているそうだ。良かった、だったらあたしも大丈夫かも。誰からも来いなんて言われてないけど。
いや、高校時代に寮に住んでいたときにも個室だったが、それでも結構ストレスはあったな。食事は食堂だし、時間は決まってるし。どこまで規則正しい生活が苦手な人間なんだ、あたしは。何かと寮内でのイベントがあったりするのもストレスだったし。皆で一緒に、というのが苦手な人間には、辛いこと多々有り。
ハロウィーンとか、その類のお遊びパーティーならまだわかるし、私もそれなりに楽しんだものもある。だが、今思い出しても「あれをプランしたのは誰なんだよ、出て来い」と言いたくなるような「おちゃめな」出来事があった。ある土曜日の朝8時くらいに、突然寮のスタッフ達にたたき起こされたのである。アメリカでよく売られている大統領とか怖いオバケとかのマスクがあるじゃない。ああいうのをかぶって、手にはおもちゃのライフル。強盗スタイルである。私は毎晩必ずドアの鍵をかけて寝ていたが、スタッフはマスターキーで鍵を開けてドカドカと部屋に入り込み、わーわーと何やら怒鳴りながら布団をひっぱがし、次の部屋を襲うべく嵐のように去っていった。玄関ロビーに即集合とかなんとか、怒鳴っていた。土曜日である。週末である。私は前の晩、朝の4時まで他の寮生とだべっていた。週末の朝くらい自由に寝させろ、と殺意さえ感じた。ただの意地悪なイタズラだと思った私は、悪態をつきながらドアを締めてまた鍵をかけ、床に落ちた布団を拾ってベッドに戻った。各部屋を開けて騒いでいる声が廊下から聞こえたが、無視である。するとスタッフ達はまた私の部屋の鍵を開けて、さらにワーワーとロビーに下りて来いと叫んで出て行った。一体なんだよっ!とまじに腹を立てながら廊下に出ると、何が何やらといった表情の寮生達が呆然としている。別のスタッフが登場し、ライフルで威嚇しながら、とっととロビーまで歩け、と追い立てる。わけが分からぬまま全員パジャマのままロビーへ行くと、寮母(というとおばさんのイメージだが30代くらいの女)、「これからあるところへ貴様らを連れて行く」(強盗スタイルなんで、和訳したらこんな感じか)と言われ、そのまま外へ。パジャマである。中には裸足の子もいる。で、どこへ連れて行かれたかと言うと、学校のすぐ近所にある校長先生の家である。校長先生んちで朝ごはんを振舞ってくれるというわけだ。なんてしゃれた演出。
ニコニコと我々を出迎えてくれる校長先生夫妻。ひきつった笑顔で"good morning"と挨拶する私。台所には、先生の奥さんが用意したpastriesとかフルーツとかが並べられていた。週末に自宅に帰ることのできないほどの遠方から来ている生徒達に、homeの気分を、という配慮なのであろう。しかし、土曜の朝8時、ライフル持った人間に大声で起こされてみ。
寝不足の私は、ぼーっとコーヒーを飲みながら、「さあ、ゲームをして遊ぼう!」とはしゃぐスタッフを冷たく見つめていた。charadeかなんかやってたよ。
当然、寮に帰ってからまた寝たさ。平和だったんっすね、あの時代のアメリカは。