レモンメレンゲパイが食べたい。この間お昼を食べたレストランに置いてあり、食べたかったのだが我慢したので余計に今食べたい気持ちが募っている。
亡くなった母方の祖母がよく作ってくれた。彼女のレシピでは子供だった私にはちょっと酸っぱかったのだが、メレンゲの白とレモンカスタードの黄色がきれいで、作ってくれるとワクワク嬉しかった。
彼女がこういうハイカラな西洋菓子を作り出したのは、60代も後半のことである。一度大きな病気になり、それが治って退院後、アメリカに住む彼女の長男の家にしばらく滞在したときに習って作り始めたらしい。英語もわからないのに一人で飛行機に乗ってアメリカに行った彼女。1970年前半くらいだと思う。元来肝っ玉な人で、行動力のある女性であった。どれくらい滞在していたんだろう。結構長かった気がする。
帰国後、当時同居していた父方の祖母が叔母のお産の手伝いでしばらくうちを留守にした期間、私のお守りのために泊まってくれていた。何年生だったのかなあ、あたし。放課後一人にさせておくには小さすぎる年齢だったから、彼女が来ることになったんだと思う。この期間、私が学校から帰るといつも手作りのお菓子を作ってくれて嬉しかった。アメリカでの話もいろいろしてくれた。よく覚えているのが、アメリカの人は、何かと言うとすぐにキスをする、という話。ただいま、おかえり、おやすみ、おはよう、いつもチュッチュするのだと笑い、私は笑いながらもなんとなく恥ずかしかった。
私が小学校5年のときに病気が再発して亡くなってしまった。亡くなった後の荷物の整理時、アメリカ滞在中のノートが何冊か出てきた。耳で聞こえたとおりに英単語をカタカナで書き、勉強していたのだ。母と顔を見合わせて「おばあちゃん、すごい!」と言ったことをよく覚えている。
彼女とはもっとたくさん話をしておけば良かったと今でも思う。私はうじうじ悩んだり落ち込んだりすることが多い人間だが、彼女のようにおおらかでポジティブな人ともっと話をしてその人生観を学びたかった。さまざまな苦労をした人だが、あの朗らかさを維持できる強さを学びたかった。
レモンメレンゲパイを見ると彼女を思い出すのよね。