すごいお母さんに遭遇した。夜7時過ぎの繁華街のバス停でバスを待っていたのだが、「うぉ、ブス」と思わず顔をまじまじと見てしまったのがそのお母さんであった。なぜブスだったのかと言うと、4、5歳くらいの息子を連れていて、彼にえらく腹を立てている様子で鬼のような形相になっていたのである。息子が何かの発表会に出たといういでたちで、二人ともお出掛けの洋服を着ていた。だが、息子はうなだれ、母親は鬼面である。その周囲には、いやーな空気がもやもやとただよっているのがわかる。
「なんなのよ、お母さんに恥かかせてっ」とささやくようになじるのが聞こえた。いやだなあ、怒るならうちへ帰ってからにしてよ。おまけに恥かかせてってなにそれ、とムッとする私。同じバスだったらいやだなあ、と思ったら、同じバスだった。おまけに私の前に座るではないか。
大きな声を出すわけではないが、とにかくなじりまくるのが聞こえる。「月謝いくら払ってると思ってるの。これからは自分で働いて払えばいいでしょっ」などと言っている。凄まじくいやな女である。自分のストレス発散としか思えない。一体その息子が何をどう失敗したのかは不明であるが、発表会らしきものでうまく発表できなかったのだと推測した。だからって、4、5歳の子供つかまえて自分で月謝払えって、そんな言い方ありますか。
手鏡でも渡して、「あなた、今ご自分がどういう顔しているかごらんになったらいかがですか」とでも言ってやろうかなどと考えたが、実際そんなことをする勇気もなく、心の中で「僕、がんばれな」と思うだけであった。
私の降りる停留所が近づいたので立ち上がって、窓際に座った男の子を見ると、手すりをしっかり握ってずっとうつむいていた。彼が大きくなって、グレないことを願うばかりだわ。